僕は一生おしゃれになれない:『B面がA面にかわるとき』と「奥沢の家」by スキーマ建築計画


藤村龍至のLRAJで初めてスキーマ建築計画(http://www.sschemata.com/)の長坂常という人を知った。
「SAYAMA FLAT」を写真で見てたまげた。こんなふうにリノベーションを「美」にまで昇華させることができるんだな、と。
それ以来気になっていて、本(『B面がA面にかわるとき』)が出るというので買った。


読み終えたときは、とても爽快だった。長坂さんの文体がとても自然で、日常的で、なかなか書けないようないい文章だったからだ。
そして長坂さんの独白の合間には、事務所スタッフとコラボレーターの塗装屋さんのおしゃべりのような裏話のような会話が入ってくる。
その2つの部分が呼応しあって、彼らのリラックスしたおしゃれな雰囲気が本のなかにしっかり定着していたように思う。今の時代のおしゃれは、着飾ることよりも、なるべく着飾らないことだと思う。


Utrecht(http://www.utrecht.jp/index.php)の青山のショップで本を買ったときに、「奥沢の家」のオープンハウスを申し込んだ。
冒頭の写真が「奥沢の家」。外壁は白くしたのちにフロッタージュし、レンガタイルの凹凸を生かしている。



一階。白を基調とした、というかほぼ全部白いワンルーム。床はトレードマークともいえるエポキシ樹脂塗装。
既存の鉄骨梁と天井が、僕の友人が呼ぶところの「マック天井」から露出している。
「マック天井」とは二重の天井のあいだが間接照明で照らされているような天井のことで、シザのスタイルだったがマクドナルド等の内装デザインに取り入れられるようになったもののことを言う。少し悪意のある命名



旧耐震壁のブレースが白く塗られて露出している。
いくつかの柱は構造補強のためにフラットバーでサンドイッチしたのちに白く塗られている。



この家具はおもしろい。



二階。部屋の真ん中にガラス張りの風呂・洗面・洗濯室がある。内部はベランダと同じFRP塗装。
電動で落ち着いた茶色のブラインドが降りてくる。なんか過剰で嘘くさい部屋。



その風呂場から見た部屋のようす。


建築的な批評を少しする。
「奥沢の家」はリノベーション物件だ。だがはっきりいってリノベーションの限界を感じた。というのは、表層の操作に終始していて空間と呼べるものがないからだ。
もともとの状態を長坂さんは「スネ夫の家」と呼んでいるが、それは小金持ちが住みそうな表層だけ取り繕った「ヨーロッパ風」の家だったということだ。そこから跳躍するためには、やっぱり空間の提案をしなきゃいけないんじゃないかと思う。
それから、全てに手が加えられているtoo muchな感じが、どうもくつろげなかった。青木淳が好みそうな「既存と新しい部分がデザイン上の役割として判別不能で、意味の定着を逃れていく感じ」(うまく言えない)が全面に展開されていて、悪く言えばあざとい。家具も全てが一点ものという感じで疲れる。「SAYAMA FLAT」のあの強烈に単純な美しさへの期待があっただけに、けっこう落胆した。僕が「白」が嫌いなこともあって、個人的には全然好きになれない家だった。(見させてもらったのに勝手なことを言ってごめんなさい。もしお施主さんやスキーマの人が見て気分を害したら申し訳ないです。)

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本を読んで少し経って感じるのは、読んだ直後の爽快さではない。もう少しアンビバレントな気分だ。


スキーマから受ける印象は、これがこれからの世代の働き方というか建築家像なんだろうな、ということだ。
気の合う仲間と秘密基地をつくって、建築でも家具でもイベントでも、なんでもオシャレにデザインする。他ジャンルのクリエーターとつるんでゲリラ的に作品をつくる。世界を変えようという野望よりは、身近な小さな目線で何かを拾い上げ、すこしずつ意味を変えていく。日常会話的で、論文的ではない。そんな感じのおしゃれなグループが、これから3年くらいは増えていくんじゃないかと思う。


憧れるけれど、こんな気分にもなってくる。
ピラミッドとか建てたい!
まったく繊細でなく、むしろ傲慢で、どーんとしている。そして馬鹿だ。


あるいはこんなことも言いたい。
俺の理論からいえば、おまえは徹底的に間違っている。
うさんくさいし迷惑だ。できれば一緒に飲みたくない。


藤村龍至やドットアーキテクツがやろうとしていることも共感できるし、スキーマの日常的雰囲気も共感できる。だいたい同じ時代を生きているから。でももっと身勝手でうるさいコルビュジエとか、ひとりで論理を構築する篠原一男とかが好きだ。空気も読みたくない。おしゃれにもなりたくない。そんな気分がしてきて困ったのだった。