『妹島和世論 マキシマル・アーキテクチャーⅠ』刊行のお知らせ
NTT出版 2017年3月24日発売 定価2400円+税
「建築・都市レビュー叢書 01」
「序」より
だが、私はこうも思う。そもそも作品にしよう、亀裂を生み出そうという心のうちに、あるつまらなさが潜んでいるのではないか――。何かを切り捨てることで得た純粋さにすがって、亀裂を仕方ないものとして諦める。そのような下部構造の上にだけ作品があるのだとしたら、作品とはずいぶんと安全な高みであぐらをかいているものだ。安心しきった作品は、平気で汚れや埃を払い落とし、事も無げにわかりやすくなる。わかりにくい世界でわかりにくい人生を送っている私をなかったことにして、ひとり得意顔をしている。そう、作品を成り立たせている当のものである「亀裂」にさえ疑問を持たなければ、作品をつくることは容易なのだ。
作品をつくること――それは私の一部を捨てることである。ではこの亀裂に、私はどうやって向き合えばよいのか。
修士論文で妹島和世について書いたのが7年前、ついに本になって、NTT出版より2017年3/24発売です。そもそもなぜ書いたのかと言えば、妹島和世の作品分析をしたかったからではなく、「いったい自分は建築史のなかのどこを生きているんだろう?」という私自身の率直でありふれた疑問について考えたかったからです。なのでこの本は、私の時代に否応無しに君臨した妹島和世という存在を梃子の支点として、1975年以降という新しい時代の建築史を描いたり、時にはもっと古い話題にまでアクセスしています。そして、先の問いに一定の答えを出しています。それは磯崎新が『日本建築思想史』で妹島和世を取り上げながらも、その正体を一切掴めていなかったことに対する、勝手な回答のようなものです。
特にすべての建築学生、すべての30代以下の若い建築家に読んでもらいたい、そして同じ時代を生きる者として何かを一緒に考えていきたいと、強く思っています。