すばらしき妄想の世界

わりと前のことになるけど、初代TV版マクロスを見終えた。
どうしてもマクロスフロンティアと比較したくなった。
今回は、現代が妄想の時代だというお話。


初代マクロスは1982年の作品(僕は生まれていない)。
マクロスFは2008年の作品。シリーズの25周年作である。
マクロスシリーズは宇宙ものロボットもののSFアニメだが、特徴としては、「ハードSF的なメカ、軍隊、星間戦争などの要素と、芸能界、日常的恋愛ドラマといったソフトな要素が渾然一体となった斬新な作風」、と、wikipediaに書いてある。
ようするに美少女、三角関係、アイドル、歌といった要素が戦争と絡めて描かれる楽しい作品である。


◎比較その1 正しい三角関係
どちらも2人の女と1人の男の三角関係が繰り広げられるのだが、その様子がまるで違う。
ネタバレは嫌なので曖昧に書くけど、初代マクロスの恋愛劇は、現実の恋愛とリンクしている。片思い、すれ違いに次ぐすれ違い、振られるし好かれたころには状況変わってるし、というのが実際の恋愛の苦しさだが、ほぼ同じことが劇中でも起きる。
一方のマクロスFはすごい。まず、勝手に2人の女に好かれる。ずっと好かれる。でも男は最後まで態度を決めず、だらだらと2人に好かれる状態を保留して終わる。なんじゃそりゃ。


マクロスFのすごさは、そうした夢物語が、完璧に正しく美しく描かれていることである。
どういうことかというと、主人公のアルトが「いいやつ」なのである。
いいやつだから、2人の女を同じくらい必死で守る。どちらも大事だ。たぶん、どちらかを選ぶことは片方を裏切ることになるから、いいやつにはそんなことできない。
そしてヒロインのランカもシェリルも「いい娘たち」だ。いい娘なので、ヒロイン同士は認め合い、友情すらある(師弟関係だけど)。相手を貶めてアルトをわがものにするようなことは、しない。そして、ぶれずにずっとアルトだけを追いかけてくれる。
全部美しい関係でできているから、なんか正しいような気がしてしまう、そんな三角関係である。
ずるいなぁ。
「2人とも愛する」は恋愛の世界では最低の行為に当たるはずなのだけど、それを咎める隙がない(主人公の同僚のミシェルが唯一それを咎めてたんだけど、結局アルトには最後まで通じませんでした)。


というわけで、現代の娯楽としてはマクロスFに軍配なのだろう。
男としては嬉しいし、気持ちのいい人間たちが気持ちのいいドラマをやってくれるから。
だから、初代ヒロイン、リン・ミンメイの(TV版での)誰にでも気をもたせるような天然悪女さは、いまのアニメファンには嫌がられることがある。


◎比較その2 言うことがない
まったく違う視点です。敵が誰なのかという比較。
初代マクロスでは、敵は、おっきい人間である。
戦いしか知らず、戦力では地球人にはかなわないおっきい人たちに、歌の素晴らしさ、恋愛の素晴らしさ、文化の素晴らしさで対抗し、和平へと持ち込むという戦争ものらしくないテーマが、本当に面白い。
そして敵が、サイズこそ違うものの地球人と同じ見た目をしているから(そしてかわいい)、戦争とはなにか?なぜ殺し合いをしなければならないのか?といった大きな話にもなる。ようするに、恋愛と同様に、現実世界の苦悩が投影されることによって、答えのない様々な問いがストーリーに厚みを持たせるのである。


一方のマクロスFの敵、ヴァジュラは、ほぼ「虫」である。脳みそないし、きもいし、ただこわい。
部分的に、それでも人間と意志を通じあわせようという描写があるけれど、ほとんどサスペンスの一要素という感じでなんにも大きな話とつながらない。
結局は、陳腐な黒幕の陳腐な野望が裏にあったとかで、そいつを倒してわーいって感じ。
なんだか、マクロスFが現実を描けないのは、描くべき現実がないからだろうなぁと思うのです。
ランカはかわいいけど、ほぼそれだけ。ぺらっぺらに薄い。(でも娯楽としては素晴らしい出来)


◎まとめ
以上の考察から、現代は妄想の時代だと結論づけます。
とか堅い口調でいわれてもね。


追記:
初代マクロスTV版、ほんとうに面白いからおすすめです。
最初2話くらいはつらいけど、慣れればその世界に引き込まれると思います。
個人的には、マクロスが地表すれすれでワープしたために街ひとつがまきこまれ宇宙空間に投げ出されたり、そのせいで宇宙空間に漂ったマグロをヒカルとミンメイで取りに行ったり、ワープしてしまった数万人がマクロス内部につくった街がマクロスが主砲を打つために変形するたびに破壊されたり、バカなところが多くて最高です。