遡上都市

制作:おんちゃん

制作:みすずさん

制作:濱野、兒玉と皆


(以下、発表原稿より)


「まずはこの写真を見てください。これは隅田川上にある貯木場の跡地です。遺跡のような静かな佇まいを目にした私は、この場所を、光や風や水を、いつもより少し鮮明に感じられる場所にしたい、と考えました。
敷地の周辺図です。先ほどの写真は豊洲側のマンションから撮りました。この敷地に建つものは、静謐で、どこか物悲しさを湛えたものでなければなりませんでした。と同時に、出来るだけただのモノ、「モノそのもの」である必要がありました。そこで私は、まず、この土地が想起させる場面を描きためたのです。続いてそれらの場面を翻訳し、連続的に繋いだ結果、一個の建築が完成しました。あえて言うなら、あたりまえのことが、あまりにあたりまえに起こるがために、改めて驚く。という建築です。
この建築は5つのレイヤーでできています。「はしけ」という甲板に穴の開いた船、それらを係留するドック、ドックを船ごと内部化するさまざまな部屋、1層分の内部空間を持つキャノピー、それを支える柱の造形とそこから吊られた壁や照明。平面図と配置図です。船底(ふなぞこ)から見上げると、5つのレイヤーが重なりあって見えます。
建築のなかを紹介します。Room1の壁の開口部からは船が進入し、天窓からはキャノピーの影が室内に落ちています。波の音が室内に反響し、それ以上何も起きません。真ん中に位置するオープンスペースでは、既存のコンクリートの杭がまっすぐに都市の方向を指し示しています。斜めの壁に落ちる格子の影が、より斜めを強調する、というあたりまえのことが、日常的でないスケールで起きています。シアターを模した部屋があります。しかし水面に下っていく客席の先にスクリーンはなく、吊り下げられた白い枠の向こうに船が通過しています。また、水面の上下によって部屋は刻一刻と表情を変えることでしょう。屋根の大部分には登ることが出来ます。広い視界の中で強い造形が空を削り取ります。船の中での展示風景です。波による微弱な揺れを感じながら、上空の景色だけが変わる、単純な移動する部屋です。そして、時にはその船を隅田川沿いの街に解き放ち、人とモノを呼び寄せます。静かな場所だからこそ、年に1度は盛大なお祭りが行われうるのです。
例えば、遠くの船の起こす小さな波と、潮の満ち引きという大きな波の波形は相似形なのだろうか。と、そんな疑問がふと生まれるような場所は東京にあるでしょうか。くだらなく聞こえるかもしれませんが、それは社会的に必要なものです。あたりまえのことに驚ける場所もまた、我々が積極的に作っていかなければ、街から消えていってしまうと思うのです。以上です。有難うございました。」


このとき以来僕はまだ何も制作していない。大学院を怠惰に過ごしてきてしまった。「今更過去を引っ張り出してどうする」と思うけれど、この続きをしっかりやらなきゃいけない、ということに最近になって気がついたのだった。こんな規模にはならないだろうけど、大学院時代にひとつ全身全霊をかけて制作しないと、卒業なんかできません。それにしても上から2番目のコラージュと3番目の絵は170cm×60cmくらいあるんですよ。4番目の模型も180cm×90cmのものと高さ150cmくらいのものの2点。どれも後輩に投げたら僕が到達し得ないほど遠くまで投げ返してくれた。あまりにみんなセンスがあるので悔しくなって5番目の絵を自分で描いたほどだ。